本日は籔内佐斗司氏のSNSより・・・・・・
Renovation
奈良県立美術館館長 籔内佐斗司
東京や大阪のような大都市は、数十年に一度、大災害や大きな催しを契機に大改造されてきました。
戦前の渋谷は、代々木の練兵場に隣接した円山町が兵隊相手の花街に、あとは畑のなかに住宅が点在するという長閑な町だったそうです。
太平洋戦争の空襲で焦土と化したあと、練兵場は米軍が駐留するワシントンハイツになり、道玄坂、円山町界隈は風俗街となりました。
それが大きくさまがわりしたのが、1964年の東京オリンピックでした。
そして、バブル景気やここ10年ほどの渋谷駅を中心とした再開発などで、すっかり町の風貌が変わってしまいました。
しかし、宮下公園近くの明治通りと山手線に挟まれた通称「のんべい横町」は、戦後の闇市の雰囲気を奇跡的に残した一角です。
約40軒ほどの居酒屋やBar、飲食店が、半世紀以上の時を止めたかのように今も元気に営業しています。
高度成長期には、サラリーマン達が仕事終わりのひとときを安価に過ごす飲み屋街でした。
そのころは、一見の若造にはなかなか近寄りがたい雰囲気でしたが、最近はカップルや女性連れもふらりと立ち寄れるようなお店が増えています。
とくに、人気ドラマ『深夜食堂』のセットそのままの街並みがSNSなどで海外へも発信されたために、新宿西口の「思い出横丁(私にはしょんべん横丁の方が馴染み深いですが・・)」とともに、インバウンドのころには、外国人観光客でごった返していて、日本人は入りにくかったそうです。
そのおかげで、おっかない女将や頑固親父(風)の店主のいる飲食店が減り、若者が切り盛りするおしゃれなBarやビストロなどが増えました。
コロナ禍以降は、外人さんの姿は激減しましたが、それでもどの店も盛況です。もっとも、4人も入れば満席の店ばかりですが・・・。
この「のんべい横丁」は、昭和25年頃に渋谷駅周辺の再開発にともない、街を流していたおでん屋やラーメン屋の屋台を線路脇に集めて店舗にしたことに由来します。
ですから、いまでも一軒の単位は、屋台に準じているとのこと。
1階はキッチンと4〜5人で満席のカウンターで、2階は小さなテーブル席がふたつほど。
生理現象は、飲み屋街の一角に造られた共同トイレを使用しますが、酔っ払っていると、帰る店が分からなくなってしまいそう。
街をぶらついていると、テレビドラマの登場人物になったような錯覚を楽しめます。
日本の街の再開発は、老朽化した建物を壊し、大きなビルを建てることが中心です。
しかし、建物が堅牢な欧米では、今ある建物をうまく利用して生き返らせる方法も盛んです。
日本と同じように戦火で廃墟となったニュルンベルグやドレスデンなどのドイツの古い都市では、建物はもちろん、小さな横丁や街路樹まで昔通りに再現し、中世の街並みを蘇らせたことはよく知られています。
またニューヨークのSOHOは、すっかりスラム化していた煉瓦造りの旧市街をアートやファッションの街へとみごとに蘇らせ、観光地に脱皮させました。
最近の東京でも、山手線や中央線の高架下が再開発されて活気づいています。
このように、今あるものに新しい価値と用途を与えるrenovationは、魅力的な街づくりの特効薬です。
渋谷のんべい横丁の建物は、70年以上前の木造二階建の長屋が基本になっています。
戦後間もなくの建物ですが、一区画が狭く柱と壁が多いせいか、東日本大震災でもびくともしなかったということです。
しかし、おそかれはやかれ、消防法や耐震対応で、再開発せざるをえなくなるのでしょうが、建築家やデザイナー、そして行政は、この昭和の風情を含めて東京の文化財としてRenovationする方法を、今のうちから考えておいてほしいものです。
私が学生の頃、夜の奈良町は真っ暗でした。引率の先生から、「奈良町は怖いから、夜はあまり出歩くなよ」と注意されたのを覚えています。
しかし、今では深夜まで営業しているこぎれいな飲食店や居酒屋も増えて、観光客が安心して遊べる街に脱皮しつつあります。
私も、知人が奈良にやってくると、お薦めの飲食店やバーを紹介しています。観光客が夜も遊べるような街にしないと、地域は栄えません。
さて、来年には開館50周年を迎える奈良県立美術館も、大規模な改築の計画が進行中です。
興福寺の瓦工房の遺跡を取り込みつつ、美術館の運営方法も含めて、古都に相応しいRenovationをしたいと思っています。
図版;まるで映画のセットそのままの渋谷のんべい横丁と店舗地図
*画像・内容は籔内佐斗司氏のSNSよりお借りしました。
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