平和ボケ

 

籔内佐斗司氏のSNSより・・・・・

映画で知るウクライナ
奈良県立美術館館長 籔内佐斗司
 昨年4月に奈良県立美術館に奉職してから、ちょうど一年が経ちました。
新幹線のぞみ号で東京―京都間の2時間10分は、パソコンでAmazonやNetflixの映画を一本視聴するのにちょうどよい時間です。
毎月数回通っていますので、最近はにわか映画通になりました。
今まで殆ど知らなかったロシアや東欧の映画も観るようになり、ロシア周辺の複雑な状況をすこし理解しかけていたところへ、今回のロシアのウクライナ侵攻でした。
もちろん、わが近隣諸国の国内専用反日プロパガンダ映画は論外としても、劇映画が歴史的事実そのままではないことを充分に承知しつつ、しかしこの事態の歴史的背景や経緯を理解する大きな助けにはなりました。
 ロシア民謡『ステンカ・ラージン』で知られるコサックは、13世紀頃にモンゴル帝国に支配されてその文化に影響を受けたロシア南部からウクライナ周辺の勇猛な人たちの総称です。
コサック騎兵(ドン・コサック)の独特の激しい動きのダンスは、多分にアジア的です。
彼らの首領・ステンカラージンことスチェパン・ラージン(1630−1671)は、ウクライナ人やタタール人が住むドン川一帯にコサック人の国の建設を夢見てロシアに反乱を企てましたが、最後は捕らえられてモスクワで惨殺されたコサック最大の英雄で、日本でいえば平将門というところ。
 1917年から1921年に起こった「ソビエト・ウクライナ戦争」を描いた映画に『バトルフィールド クルーティの戦い』(2019)があります。
侵攻してきたロシア軍の一割にも満たないウクライナ共和国軍や学生たちの戦いを描いています。
結果的にウクライナ側は敗れてソ連に併合されてしまい、ウクライナ東部にソ連から多くの入植者が定住しました。
今回のプーチンの侵略は、そのロシア系市民の保護と権益擁護が口実でした。
 ウクライナ地方は、欧州諸国とロシアとのちょうど境界に位置する肥沃な穀倉地帯であるため、第二次大戦時もドイツ軍やイタリア軍が侵攻しました。
往年のイタリアの名画『ひまわり』(1970)は、戦後のウクライナを舞台にしていますが、青と黄色のウクライナ国旗のデザインが、抜けるような青空の下に拡がるひまわり畑だといわれています。
黄色は稔り豊な小麦畑だという説もあるようですが、いずれにしてもウクライナのひとたちの祖国への思いがいっぱいに詰まった旗なのです。
 2013年にウクライナの学生や市民が蜂起した93日間の戦いを描いたドキュメンタリー映画『Winter on Fire Ukraine’s Fight For Freedom』(2015)を見ていたおかげで、ドン・コサックの血を引くウクライナの学生や市民たちが親ロシア政権の警察や軍と勇猛果敢に戦う強さを理解できました。
ゼレンスキー大統領はロシアへの抵抗の指導者ではあっても、彼個人のために市民が戦っているのではないことは明らかです。
万が一、彼が暗殺さたれたとしても、市民の抵抗は強まりこそすれ弱まることはないでしょう。これがロシアのプーチン大統領との最大の違いかも知れません。
 ウクライナとは離れますが、ドイツ移民が多いチェコのズデーテン地方の処遇を巡って、独・伊・英・仏の間で行われた「ミュンヘン会談(1938)」の経緯を描いた『ミュンヘン 戦火燃ゆる前に』(2021)を、ロシアのウクライナ侵攻前に観ました。
第一次大戦の凄惨な戦闘を経験した英国のネヴィル・チェンバレン首相が、戦争回避のためにわざと気弱な平和主義者を演じつつヒトラーとの融和交渉を推し進めた史実に基づいています。
ロンドンの空港で飛行機から降り立ち、合意書をぺらぺらと風になびかせながら演説する姿が、彼の苦しい立場を象徴しています。
そしてその直後にドイツはズデーテン地方に侵攻し、間もなくチェンバレンは病死し、あとを嗣いだチャーチルの指導で、英・仏は過酷な第二次欧州大戦へと突入することになりました。
その後、ナチスドイツは欧州全域を占領し、英国も侵略の危機に曝され、やがて米国や日本も参戦する第二次世界大戦へと拡大していきました。
今回の事態は、国境が、線ではなく不安定な帯(緩衝地帯)であることをはっきり理解させてくれました。
そしてウクライナ侵攻は、国際連合の機能不全を明らかにしました。
敗戦後、ひたすら国連平和主義を唱えて平和ボケに陥っているわが国ですが、国民はその限界と現実に気がつかねばならないと時だと思います。
一日も早くウクライナ市民に平穏な日々が舞い戻ることを祈念して。
図版;私が大好きなミニオンを逆さまにしたらなんと・・・!

 

*内容は籔内佐斗司氏のSNSよりお借りしました


 

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