日別アーカイブ: 2023年1月11日

仮面芸能のふるさと

本日は籔内佐斗司氏のSNSより・・・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

館長の部屋 第57話 仮面芸能のふるさと

奈良奈良県立美術館館長 籔内佐斗司

新しき春の訪れをこころよりお慶び申し上げます。そして本年も、どうぞよろしくお願いいたします。

今年の干支は「癸卯(みずのとう)」です。癸は、十干では水性の陰を表します。また十二支の卯の字は「門を開く」形を表し、「万物地を冒して出づ」という意味があるそうです。

花が一斉に咲き誇る四月を「卯月」としたのは、大地の下から力強く芽吹く様を、巣穴から耳を出しているうさぎの姿とも重ねたのかもしれません。

卯の刻は午前五時から七時ごろの明け方を、卯の方位は東です。いずれも、新しいことが始まる予兆を感じさせます。

4年目に入るばかばかしいコロナ騒動と、長引くウクライナ紛争が、一刻も早く終焉することを願っています。

さて、2023年は奈良県立美術館開館50周年という記念の年です。

当館では、一年を通じてさまざまな記念行事を予定していますが、その中心にあるのは秋に開催する『仮面芸能の系譜』展です。

わが国は、世界的に見ても珍しいほど古今東西の多種多様な仮面芸能を伝えている国です。

そして大和の国は、飛鳥、天平から中世・近世を経て現代まで営々と仮面芸能が行われてきた土地柄。

7世紀前半に、わが国に最初にもたらされた外来の仮面芸能は、「伎楽(ぎがく、くれうたのまい)」でした。百済からの帰化人・味摩之(みまし)が、中国の江南地方「呉」で学んだ滑稽でいささか卑俗な仮面舞踊を、飛鳥の子どもたちを集めて習わせたと『日本書紀』には記載されています。

彼の出自については諸説あるようですが、少なくともわが国における音楽を伴った仮面芸能の始祖といって間違いではないでしょう。

また仏教の興隆に合わせ、聖徳太子とその腹心であった秦河勝(はたのかわかつ)も、中国の宮廷楽舞の雅楽や舞楽の導入に大きな功績があったと伝えられています。やがて、朝廷に音楽芸能を司る「雅楽寮」という部署が設けられ、アジアのさまざまな音楽や芸能を行う楽人や芸人を招聘したり育成しました。

とくに東大寺大仏の開眼法要時に催行する大イベントのために、唐の公式楽舞である唐楽や、朝鮮半島の高麗楽、新羅楽、東南アジアの林邑楽、また中央アジアの胡楽やインドまでの世界中の楽舞が導入されました。

そして、これらがその後のわが国の楽劇や邦楽の基礎となったことを考えると、東大寺大仏開眼供養会の影響の大きさは偉大です。

平安時代以降、雅楽や舞楽が朝廷の公式楽舞として再編されたために、現在行われている雅楽・舞楽はたいへん生真面目な印象です。

しかし、当初は唐王朝で催された「散楽・百戯」といった物真似や曲芸、相撲のような娯楽性の高い演芸もたくさん含まれていたようです。

獅子舞や独楽回し、曲芸のような「太神楽(だいかぐら)」、また漫才などの源流はこの散楽・百戯だったのです。こ

れらが中世の猿楽(申楽)や田楽そして能などへ発展していきました。

平城京の寺院で催されていた伎楽は、平安京では徐々に廃れ、鎌倉時代頃にはほぼ廃絶しました。

現在系統だって残っている伎楽の遺品は、正倉院や東博の法隆寺宝物館に残されているのみで、中国にもごくわずかしか残っていません。

中国江南地方の伎楽を研究しようとすれば日本に残された資料を元にするしかありません。

伎楽が廃れる一方、華北の文化である「雅楽・舞楽」は隆盛となりました。しかし、伎楽に用いられた仮面は、修験者らによって寺院から持ち出され、彼らの祭礼などに用いられ、それが追儺会や神楽やなどのさまざまな民間芸能へと発展したのではないかと私は考えています。

伎楽の先頭を歩いた鼻の大きな「治道(ちどう)」は大天狗に、「迦楼羅」は烏天狗に、「崑崙」は鬼面になっていったのではないでしょうか。

また中世期、三輪山の周辺には仮面芸能の四座である円満井(金春)、結崎(観世)、宝生(外山)、坂戸(金剛)が形成され、それぞれに秦河勝を始祖とする伝承を持っています。

またそれらと、天台系寺院の常行三昧堂の後戸に祀られた「摩多羅神(翁面)」との関係が考えられます。

秋の記念展に先駈け、プレイベントとして3月4日(土)5日(日)に、奈良春日野フォーラム甍(いらか)において、パンフレットのような仮面芸能の公演およびトークイベントを開催します。

まず3月4日(土)12:45から、法政大学能楽研究所所長の宮本圭造氏による基調講演「仮面の魔力」を行います。

そのあと、落語家・桂吉坊の司会で、トークイベント。宮本氏を囲んで、能楽鼓方人間国宝・大倉源次郎氏、奈良の生き字引・岡本彰夫氏(奈良県立大学客員教授、元春日大社権宮司)、および私が登壇します。

いずれ劣らぬ論客(私は別として)によって、きっと盛り上がることでしょう。公演は、茂山千三郎さん&平成伎楽団「茂山組」による新作狂言「大和西瓜」、島根県の遊福神楽保持者会による「石見神楽 ヤマタノオロチ」。  3月5日(日)12:45からは、南都楽所による舞楽、京都鬼剣舞による鬼剣舞、そして金春流能楽師・金春穂高氏の能楽という、ふだんでは見られない番組構成になっています。

お席に限りがありますので、興味のある方は早めにお申し込みを。

奈良県立美術館公式ホームページ;https://www.pref.nara.jp/11842.htm 図版クレジット)篆書体「卯」 東京国立博物館法隆寺宝物館 伎楽面 治道   倣法隆寺献納宝物 伎楽面 呉公 籔内佐斗司・作(2022)  倣正倉院宝物伎楽面 崑崙 籔内佐斗司・作(2021)    平成伎楽団「茂山組」『大和西瓜』(2013)

 


*画像・内容は籔内佐斗司氏のSNSよりお借りしました。


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