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森川杜園展に寄せて 其の三

今月末まで愛知県には緊急事態宣言が延長されております。

宣言中の買取のご訪問等は行っておりません。ご了承の程お願い申し上げます。

どうして来てもらえないの?とお電話で催促されましても緊急事態宣言が発令中は昨年から一貫してお互いの安全又はそのご家族・関係者様の安全も考慮して行っておりません。

解除され次第、速やかに対応させて頂きます。

宜しくお願い申し上げます。

 

本日は森川杜園展に寄せて第三弾でございます。

森川杜園展に寄せて 其の三
奈良県立美術館 館長・籔内佐斗司
 大和国は、わが国の芸能の故郷です。6世紀に伝来した中国江南の呉(ご)の地方の仮面舞踊「伎楽(ぎがく)・呉楽(くれうたのまい)」をその嚆矢として、非常に国際的な文化が華開いた天平時代には、唐王朝の宮廷楽舞に加え、シルクロード伝来の胡楽、朝鮮半島からの高麗楽(こまがく)、東南アジアを源流とする林邑楽(りんゆうがく)などがわが国に伝来しました。そしてアジア各地のさまざまな楽舞の演奏者が律令制下の雅楽寮(ががくりょう、うたまいのつかさ)で養成され、東大寺落慶法要の際には、国際色豊かに披露されました。今でいえば、世界各地からタレントが集まる国際音楽フェスという雰囲気だったのでしょう。
その後、平安京に遷都されたことで、役所としての雅楽寮は京都の近衛府や令外官などに押されて衰微しましたが、東大寺、興福寺、法隆寺などを舞台に雅楽や舞楽は続きました。
そして江戸初期には、雅楽の演奏団体が南都、宮中、四天王寺の三方楽所(さんぽうがくそ)として整備され、継承された世界最古級の音楽芸能として現代に至ります。
 また7世紀の秦河勝(はたのかわかつ)を祖とする秦楽(しんがく、はたがく)・申楽などに加え、滑稽な物まねや曲芸が元になった散楽などが中世以降に猿楽(さるがく)へと発展し、室町期に観阿弥・世阿弥によって集大成された能や狂言となりました。
このように、各寺院で催される追儺会(ついなえ)、行道会(ぎょうどうえ)なども含め、日本の伝統的楽舞のほとんどは、大和国が出発点となったものです。桜井を中心とした猿楽四座(観世、金春、宝生、金剛)が平安京に移ったあとも、能楽は南都の寺院で演じられました。
杜園作品の主題の多くが、舞楽と能・狂言から取られていることからも、これらの芸能が絶えることなく大和の人々のこころに馴染んでいたことが分かります。
 それでは、今回の『杜園展』に出品されている舞楽や能・狂言関係の作品をいくつかご紹介しましょう。
 舞楽の主要なテーマは、古代中国王朝の英雄伝説や朝鮮半島の舞などです。
その代表である『蘭陵王(らんりょうおう)』は、中国東北部の渤海を出自とする北斉の皇族・高長恭が蘭陵王という称号に任ぜられ北周と戦った故事に由来する唐楽の代表曲。彼は眉目秀麗であったために、敵に侮られることを嫌い、怪異な仮面を付けて戦場に臨んで味方の軍勢を鼓舞し勝利しました。
左方の舞台で激しく演じる「走り舞」の代表曲です。本作は、杜園の特徴である大ぶりの頭部や手先がかわいい童子形で表されています。
『蘭陵王』によく似た『還城楽(げんじょうらく)』は、唐の玄宗皇帝が凱旋した様を舞楽にしたものとも、蛇を好んで食べた胡国の人が蛇を見つけて喜んでいる様を舞にしたものとも伝えられています。
吊り顎で真っ赤な怖い顔をした仮面が特徴です。
 能に取材した『融(とおる)』は、旅の僧が京都六条河原院の旧跡で仮寝していると、左大臣・源融の亡霊が現れ、昔を思い出しながら舞を舞い、名残を惜しみながら月の世界に帰っていくという夢幻能に取材しています。
左大袖を頭上にかざす姿が特徴的です。
また『牛若・熊坂』は、旅僧の前で盗賊の首領・熊坂長範の霊が牛若に討たれた無念を語る夢幻能ですが、本作は、剛毅な長範に対峙する牛若の凜々しくも愛らしい姿が印象的な佳品です。
狂言に取材した『福の神』は、口許に指をあてた杜園らしい童子形のほほえましい作品。
 いよいよ9月23日(木)から始まる本展は、200点を超える多くの作品で構成されますから、その全貌はぜひ会場でご堪能ください。
図版クレジット;『福の神』
*内容・画像は籔内佐斗司氏よりお借りしました。

 


 

 

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森川杜園展に寄せて 其の二

緊急事態宣言が解除されましたら観覧しようと思います・・・本日は森川杜園展に寄せて第二弾でございます。

森川杜園展に寄せて 其の二
奈良県立美術館館長・籔内佐斗司
 私がまだ東京藝術大学の学生だったころ、東京国立博物館本館の常設展を観ていたときのことです。
第一室の考古遺物から順に巡って、最後の近代彫刻の部屋で、高村光雲の『老猿』や佐藤朝山の『蜥蜴』などと並んで真っ黒に煤けた小さな法隆寺九面観音立像が展示されていました。
「なぜこんなに古い仏像が近代彫刻の部屋に展示されているのかな?」と訝しく思いつつよく観ると、「模造 森川杜園」と題簽にありました。
これが私の杜園初体験でした。本像の原本は、唐代の江南で造られて奈良時代に舶載されたと思われる檀像彫刻の傑作で、もちろん国宝です。
像高は38センチ、蓮台から瓔珞や胸飾、天衣までのすべてを一木の白檀から彫り出した本像を、杜園は見事に再現しただけでなく、正直に申し上げると、彫技は原本よりも優っているのではと密かに私は思っています。
そして嬉しいことに今回の「杜園展」には、この九面観音立像も出品されます。
そこで今回は、この見事な模造を造った森川杜園の木彫技術と彩色について、彼に影響を与えたひとたちと合わせてお話しさせて頂こうと思います。
 柴田是真(しばたぜしん、1807−1891)は、幕末から明治を代表する蒔絵師で、江戸の漆工細工を近代工芸に導いた人です。
それまでの蒔絵職人とちがい、自ら見事な図案を描きました。四条派の絵を学ぶために京都へも遊学し、和歌や国学にも親しみ、頼山陽には書を学んだたいへんな教養人でした。
若き杜園は、その是真に出逢い、作風だけでなく人柄に大きな感化を受けたといいます。
このように幕末の文化人は、各地をかなり自由に歩き回って交流を深め、高い教養を身につけていたことに驚きます。
 杜園の直接的な絵画の師匠は興福寺修南院に所属していた役人・内藤其淵(ないとうきえん)でした。
彼は鹿の絵を得意とし、彼が描いた迫真の鹿図の衝立に牡鹿が襲いかかったという逸話もあります。
杜園が彼から修得した彩色技術は秀逸であったことは、彼の木彫彩色が、今もほとんど剥落することなく堅牢であることからも伺えます。
そして写真が珍しかった当時、博物館行政の父と謳われた町田久成(1838−1897)から公式記録のために依頼された正倉院御物などの写生や模造も実にみごとです。彼の彩色技術がいかんなく発揮された『金峯山寺経塚出土金銅経箱』の模造作品もお見落としのなく。これは金銅製ではなく、木造彩色ですから、くれぐれもだまされないように。
 彼は、1877年に開催された第1回内国勧業博覧会に『蘭陵王』と『鹿』を出品して好評を博し、1893年のシカゴ万国博覧会では大作『牡牝鹿』を出品するなどして、木彫家としての名声を全国的に確立しました。
その他にも、仏像の修復も手がけ、破損のひどかった興福寺の天灯鬼・龍灯鬼を現在の形に修復したのは杜園といわれます。
その成果に基づいて制作した『龍灯鬼』は、第2回内国勧業博覧会(1881)に出品され、妙技二等賞を受賞しています。
ちなみに「勧業博覧会」の名称からも分かるとおり、明治初期の美術工芸は、殖産興業や輸出振興を主眼とする農商務省の管轄でした。
これらを藝術分野として文部省の管轄にしたのは、町田の後輩である岡倉天心(1863−1913)でした。
 こうやってお話ししていると、私自身が『杜園展』会場で一日も早く実物に再会したい思いにかられています。
図版クレジット; 東京国立博物館蔵 模造 法隆寺九面観音立像 森川杜園作
*内容・画像は籔内佐斗司氏のSNSよりお借りしました。

 


 

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森川杜園展

本日は籔内佐斗司氏のSNSより・・・・・・

 

 

 

 

森川杜園展に寄せて 其の一
奈良県立美術館
館長・籔内佐斗司
 幕末から明治にかけて、さまざまな分野に驚くべき才能を持った俊英が日本全国にたくさん現れ、近代日本の黎明期に大活躍しました。
それは、政治・経済や産業分野だけでなく、学門や美術工芸においても、枚挙に暇がありません。
人口が今の四分の一くらいだったことを考えると、その数は驚異的です。わが国が、この激動期にこれだけの人材を輩出できたことは、江戸時代の幕藩体制が築き上げた類い希なる文化国家の成果であったといえるでしょう。
 私は、奈良の痛快漢・森川杜園(もりかわとえん、1820〜1894)もそのひとりに加えたいと思います。
幕末から明治にかけて大きく揺らいでいた神仏習合の宗教都市・大和国に、彼のような多才なアーティストが生まれたことは、当時のこの土地の文化程度の高さを物語っています。
 彼は、幼いころから絵画、木彫、狂言を貪欲に学び、またその才能ゆえに多くのひとびとから愛された異才でした。
興福寺御用の絵師で鹿の図を得意とした内藤其淵(ないとうきえん)に絵画を、木彫り師・岡野保伯に奈良人形の手ほどきを受け、やがて明快な彫刻面で構成される奈良一刀彫りの第一人者となりました。動物や舞楽や能楽を題材にした優れた木彫作品を制作しましたが、その造形は古様に倣っただけでなく、ひとめで杜園作とわかる童子体型で、滑稽味と味わいのある個性を持っています。
今は奈良町といわれる元興寺近辺の町屋に暮らし、興福寺や春日大社とも縁が深く、また能楽・狂言にも長けていました。
特に、狂言は自宅に稽古舞台を造るほどの打ち込みようで、当時の大舞台にも声がかかるほどの巧者であったといわれます。ですから、彼を木彫家で括ることには無理があります。
 そして杜園の自筆ではないかと言われているこの舞台の鏡板は、現在、春日大社で保管されているとか。
また彼の旧宅は奈良市中新屋町に現存していますが、現在の所有者が遊び心溢れる「ならまち刀剣ショップ杜園」を経営し、奈良町を訪れる観光客にも人気があります。
空襲を受けなかった市内に残っているこうした奈良の文化財は、日本の宝です。
 森川杜園の生涯を知るには『藝三職 森川杜園』(燃焼社、2012)がお薦めです。
これは、大津昌昭氏の綿密な考証と見事な筆致で展開する「伝記小説」なのですが、のんびりした大和弁のひとり語りがあまりにもよくできているために、杜園先生から直にお話を伺っているような錯覚を覚えるところが、ちょっと危険な書物です。
「これは、小説、小説」と確認しながら読み進める必要があります。
 奈良県立美術館の秋の企画展『生誕200周年記念 森川杜園展』が、9月23日(木・祝)から始まります。美術館では、ただいま展示と準備の真っ盛り。
そして、木彫家である私は、森川杜園について語りたいことは山ほどあります。11月14日(日)までの会期中に、あと何度か寄稿したいと思いますので、どうぞお楽しみに
*画像・内容は籔内佐斗司氏よりお借りしました。

 

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必勝 信貴坊(しぎぼう)

籔内佐斗司氏の来年の干支「寅」にちなんだ作品の続報です。

 

 

 

 

 

来年の干支「寅」にちなんだ作品の続報です。
1400年前に、仏法興隆を願って排仏派の物部守屋と戦った聖徳太子(厩戸皇子)は、寅年、寅日、寅刻に毘沙門天に戦勝を祈願し、そのご加護で「丁未の乱」に勝利したと、生駒山の信貴山朝護孫子寺の寺伝にあります。
「必勝 信貴坊(しぎぼう)」は、張り子の虎に跨がった勇敢な童子です。
本作は木彫作品ですが、これを原型にブロンズ作品も製作中です。
寅の首はゆらゆら動きます。どうぞお楽しみに。
-写真の作品-
作品名:「必勝 信貴坊(しぎぼう)」
材質:檜、漆、顔料、金箔
*内容・画像は籔内佐斗司氏よりお借りしました。

 

 


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美術館の社会的役割

本日は奈良県立美術館 館長 籔内佐斗司氏のSNSより・・・・・前回掲載しました「8月15日に思うこと」の流れから・・

 

 

美術館の社会的役割
奈良県立美術館 館長・籔内佐斗司
 私が8月22日に寄稿した『8月15日に思うこと』に対し、ある県民の方から「籔内館長の上記投稿について、非常に注意を要する話題であり、学術的にもまだ定説となっていない物を、あたかも真実の様に断言するのは公立美術館の公式ページ上に掲載することがふさわしいのか疑問です。」
「美術館の活動と直接的に関係のない、館長個人の思想、主張を、米中韓の作品を展示することもある美術館の公式ページ(=奈良県の公式ページ)に載せ、要らぬ炎上でも引き起こしてしまったら、美術館の今後を左右することにもなりかねません。・・・」という趣旨の投稿を、県庁のウエブサイトに頂戴しました。
とても真摯なご意見と、当館へのご心配を頂いたことに対し、心より感謝申し上げるともに、私なりのご回答を差し上げました。
 以下はそれをもとに、「美術館の社会的役割」と題して書き改めたものです。
 私は、コロナ禍の4月に奉職後、まずネット上に「館長の部屋」「学芸員の部屋」を開設し、事務的な情報告知だけでなく、職員の生の声を発信することで、生きている美術館を知ってもらおうと努めてまいりました。
また途中休館を余儀なくされた『高島野十郎展』では、動画での発信にも力を入れました。
いずれの取り組みも多くのみなさまからとても好意的に受け取めて頂き、大変ありがたいことだと感じています。
 さて今回の寄稿『8月15日に思う』につきましては、日本人にとって決して忘れてはならないこの日について、子供の頃から疑問に思っていたこと、永く考えてきたことも踏まえて熟考してエッセイにまとめました。
引用した関係者のセリフは、米国の公文書や公式フィルム、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画などで公開されているものですので、「学術的にもまだ定説となっていない物」というご指摘は当たらないのではと考えます。
 また現代の日本の政策決定や日本人の行動原理に、占領軍によるWGIP(戦争犯罪広報計画)の効果が70年を経ても少なからず影響していることは、多くの歴史学者や社会行動学者、心理学者の認めるところです。
そして靖国神社の合祀問題については、近隣諸国が敏感に反応するにも関わらず、なぜ日本の為政者が敢えて参拝を続けるのか、若い人たちに日本人の死生観やこころについて考えるきっかけとなるよう、問題提起いたしました。
 ニュルンベルク裁判の公式記録フィルムには、裁判の冒頭に首席検事・Robert Jackson氏が「彼ら(戦争犯罪人)の肉体は滅びても、その(邪悪な)魂は永遠に生き続ける」と宣言しています。
また判決後に絞首刑となった戦犯たちの遺体が、キリスト教的な埋葬をされずに焼却され、川に流されている場面が映されています。
このことは、この裁判が、日本人の伝統的な死生観とは違う、キリスト教文化の思想に基づいていることを物語っています。
このことだけでも、文筆家はいくつもの文芸作品を生み出せるでしょうし、芸術家には創作表現の源泉となり、そして美術館には展覧会の企画の種となるでしょう。・・・・・
*以下は、奈良県立博物館Facebook https://www.facebook.com/narakenmuseum/ をお読み下さい。
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画像クレジット;
ニュルンベルク裁判の被告席
ニュルンベルク裁判で冒頭陳述を行うJackson首席検事
籔内佐斗司

 

 

 

 

*画像・内容は籔内佐斗司氏よりお借りしました。

 

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